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最高裁判所第一小法廷 昭和24年(オ)63号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人斉藤元義の上告理由第一点について。

仮りに所論のごとく第一審原告村松源作の弁護士後藤助蔵に対する訴訟代理権授与の瑕疵があつて同弁護士の訴訟代理権が存在しなかつたとしても、昭和二四年四月二五日附上申書並びに添附の昭和二二年六月六日附委任状(記録末尾参照)によつて同弁護士の訴訟行為が原告より追認されていること明瞭であるから、所論は、その理由がない。なお、所論追加主張は、独自の見解であつて、所論委任状は、控訴審における訴訟代理権授与の意思表示として欠くるところがないことその委任状自体で明らかであるから、所論追加主張も採用できない。

同第二点について。

(所論甲について)しかし、証拠調をするには必ず証拠決定に基かなければならないことは訴訟法上要請されていない。そして、記録によれば、所論被控訴代理人申請の原審証人里見時太郎は昭和二四年二月一五日の原審口頭弁論期日に当事者双方の代理人出頭の上、上告代理人においても異議なく、裁判官の面前において証人調が行われたものであること明らかであるから、これを証拠としたからといつて不法であるとはいえない。

(所論乙について)しかし、当事者の申出た証拠を裁判所が不必要と認めたときは、特に却下決定をしないで、証拠を取調べないこともできるものである。(民訴二五九条参照)。そして、本件では原審第二回の口頭弁論期日における最終弁論において当事者双方の代理人は他に主張立証はないと述べそのまま弁論を終結していること記録上明白であるから、所論控訴人本人訊問の申出は抛棄されたものと認めるを相当とする。それ故、この点に対する論旨も採用できない。

同第三点について。

しかし、地方裁判所の審判を一人制とするか合議制とするかは立法政策の問題であつて、憲法問題でなく、従つて、これに関する違反は憲法違反にならないことは当裁判所大法廷の判決の趣旨とするところである。(昭和二二年(れ)二八〇号同二三年七月二九日刑事判例集二巻九号一〇〇七頁以下参照)。また、裁判所法二六条二項一号の決定は、これを変更して一人の裁判官で事件を取り扱わしめることをうるものとする決定をすることができると解するを相当とする。そして、右決定及びその変更決定は、公判調書若しくは合議部裁判官全員の署名押印又は少くとも押印等を以て記録上明確にし置くことを当然とするが、元来無方式の決定であるから、記録上かかる決定のあつたことを窺知し得るを以て足りるものとせざるを得ない。されば、所論のごとく昭和二三年三月五日の第一審口頭弁論期日において長尾裁判官より「本件は単独裁判官で審理する旨の決定を告知する旨」当事者双方に告知した旨口頭弁論調書に記載されているところから見れば、本件第一審東京地方裁判所民事第三部の合議体は、本件合議体で審理及び裁判をする旨の従前の決定を変更して長尾裁判官一人で本件を取り扱う旨の変更決定をしたものであることを窺知することができる。それ故、爾後同裁判官が本件を単独で審理し判決したことは必ずしも違法でも違憲でもないといわなければならない。次に、裁判官長尾章は、昭和二二年一二月三日前記民事第三部の合議体裁判所の構成変更による口頭弁論更新以後単独審理に移行して結審するに至るまで引続き構成員として口頭弁論に関与していたことは記録上明らかである。されば、第一審手続には所論のごとき民訴一八七条に反する違法も認められない。それ故所論は採用し難い。

同第四点について。

しかし、原判決は、「昭和二一年八月二四日東京区裁判所で被控訴人と里見時太郎との間に調停成立し、同日両者合意の上で本件家屋の賃貸借契約を解除し翌年二月末日限り明渡すことを約し現に他に移転済である」事実をば、成立に争のない甲第一号証、第一審並びに原審証人里見時太郎の証言及び第一審における被控訴人訊問の結果によつて認めることができると判示しており、該証拠によればその認定を肯認するに足りるのである。されば、原判決には所論のごとき証拠判断につき重大なる錯誤あることを認め得ない。また、裁判所は、証拠の内容を如何なる事由により真実と認めたかを判決の理由で判断することは訴訟法上要請されていないのであるから、これが判断を欠いているからといつて違法であるとはいえない。本論旨はその理由がない。

同第五点について。

しかし、昭和二四年二月一五日原審最終口頭弁論調書によれば、控訴代理人(上告代理人)は、控訴人(上告人)は訴外里見時太郎より昭和二二年一二月本件家屋を期限の定めなく無償で適法に借り受けた旨並びにその借受は賃料の定めなく控訴人が被控訴人(被上告人)のため家の留守管理をしてやつた関係で無償とした旨のみを主張したに過ぎないものであることを認めることができる。しかのみならず、仮りに上告人が所論のごとく「右事務を手伝うことによつてそれを賃料に当てて貰う」と主張して本件家屋の使用が無償使用でないものと主張したとしても、かかる労務の提供は、法律上家屋使用の賃料(賃金)の支払といえないから、右主張を以て法律上の家屋の賃貸借又は転貸借の主張と解すべきではなく、従つて、仮りにかかる労務提供の約束があり被控訴人もこれを承諾していたとしても借家法四条の適用のないことは明白であるから、原判決が「里見と被控訴人との間の基本たる賃貸借関係が解除となつた以上、該事実が引続き本件家屋を占有する正当の事由となすことはできない」旨判断したからといつて法令の誤解があるものとすることはできない。その他原判決の認定が甚だしく杜撰だとの主張は、原判決が適法になした事実認定を非難するに帰し採用することはできない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎)

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